自分のペースで

大好きな読書を中心に、日々の気づきを綴ります。 目標→100記事執筆

「いつかお母さんにプレゼントを買いたい」

 今年29歳になる兄が漏らした一言だ。兄は高校を中退してから、挫折続きである。なんとか生活費を稼がなくてはという思い出応募したローソンのバイトは三日で辞め、父さんの影響で通った鍼灸師の専門学校も半年ほどでリタイアした。どうしても人間関係というハードルに折れてしまう兄。挫折するたびに泣きながら暴れていた。私は幼い心で兄なんていなくなれば良いのにと思っていた。

 最近特に兄のことを疎ましく感じてしまう。相変わらず挫折続きの兄。何をやっても最初のハードルでぶつかってしまう。兄が27歳のとき、病院に行って帰ってきた表情は暗かった。アスペルガー症候群と診断されたのだ。障害者手帳を受け取った兄は受け入れられないと言っていた。受け入れるしかないだろうと思った

 兄は兄弟の中で一番小さく見える。運動不足のせいで筋肉もないのだが、なんというか小さく見えるのだ。いつも自信がなさそうで兄弟の顔色を伺っている。自分の言動が間違ってなかったのかと確認をしてくる。大丈夫と伝えても信じられない。だからまた日を置いて同じようなことを聞いてくる。しつこいなと思ってしまう自分がいる。

 それでも兄はいつでも自分のことを思ってくれている。大学入試を1番応援してくれたのは兄だった。当時精神的にもボロボロだっただろうに、希望する大学のOBがいると知ると身を削って仲介してくれた。人と会うこともしんどかっただろうに。私はその甲斐もあって大学に行った。フィリピンへの留学もした。悩みがちな自分は楽しかった記憶よりも悩んでいた記憶の方が多いが、それでもたくさんの事を経験した。兄はそのどれも経験できていないのに。

 私は一年に大体2回実家に帰省する。兄は相変わらず実家から出られないでいる。10代の時に破れなかった殻からまだ出られずにいる。やっぱり挫折続きだ。本当に自信がないのだろう。私と一緒にいるときも分かるくらいに緊張している。気を使い過ぎな兄のことを、どうしても疎ましく思ってしまう。仕方ないとわかっていても態度に出てしまう。たまに自分が嫌になる。

 今年のクリスマス母が家族一人一人にプレゼントを買って渡していた。お金はないから高いものではないけど、奮発しちゃった。と言っていた。兄はその姿を見て「いつかお母さんにプレゼントを買いたいけどお金がないな」と寂しそうに呟いた。どんな仕事でも私は今お金を稼げている。それは幸せなことなんだと思った。

 兄は次の4月に障害者支援施設に行くことを決めた。障害者ということをどうしても受け入れられず、2年間道を探していた。挫折を繰り返した結果、自分はここに行くしかないと思い知らされたらしい。高校の中退から長い間止まっていた兄の歯車がようやく回りそうだ。まずはその訓練施設に三ヶ月通うことを目標にしている。達成できた兄の姿を見たいと思う。

 自分はなんて運がよいんだろう。同じ親から生まれ同じ家で育ったのに、私は今人の中にいるのだ。どんなに人付き合いが苦手でも、どんなに上手くいかなくても、どんなに自分の性格が嫌だと思っても、少なくとも人の中に入れているのだ。なんて運が良いんだろう。自分はその運の良さに感謝できているのかな。日々不安と憂鬱に支配されて後悔ばかりしているな。きっと自分にできる誠意いっぱいを日々行うことが兄への恩返しなんだろう。少しずつだけど、不安ではなく感謝の気持ちを持って生きていきたい。